貴方に会える、と

嬉しくて、一歩一歩が軽かった

この道のりが、



貴方の元へと歩く一歩一歩が

今はひどく重い。







キライ












今、十二宮のこの階段を

アイオリアのいる獅子宮へと向かっている。



今の、アイオリアとのギクシャクした関係をなんとかするために。






「ミロに励ましてもらったけど、・・・やっぱりちょっと辛いな・・」


行くと決めたものの獅子宮に近づくにつれ、

やはり嫌な予感や、考えたくないことばかり浮かんでしまう。




ちらつくのは、

やっぱり、魔鈴さん・・。



自分でも嫌なくらい意識してしまっている。

何度か思った事があった


『魔鈴さんは・・・、魔鈴さんも、アイオリアの事が好きなんじゃないだろうか』


そう思わせるには十分なほど、魔鈴さんはアイオリアと一緒にいる。

ずっと、ずっと。

本当に、入る余地なんてない、って思わされるくらいに。




長い間そう思ってきてしまったから

ミロに励まされても、

考え方は、簡単には変えられない。



例のシーンも見てしまったから・・・。





「・・・・やばい。足が震えてきた・・・。」



アイオリアに会って

私の気持ちをぶつけてしまったら

もう、アイオリアと笑いあうことができなくなってしまうかも知れない。



そう思うと、

恐くて、前に、進めない。













「・・・・・・でも・・」



それじゃあ駄目なんだ。

今までと同じにしていたら、

勇気を持って踏み出さなくちゃ、私の欲しいものは手に入らないんだ。


欲しいものを諦めて、

それを『しょうがない』って見てることしかできなくなっちゃうんだ。







アイオリアと魔鈴さんの姿を見たときの 喪失感 

それはもう、味わいたくない感情。




嫌われちゃうのは恐い。

だけど、それ以上に恐かったのは


彼を失うこと

彼が誰かのものになってしまうこと

だった。







「・・・・よし・・」



震える足をなんとか動かして、

少しづつ、だけど確実に

アイオリアの元へと向かった。





















「・・・・・・・・着いた。」


少し前は、よく通っていたこの宮は

なんだか懐かしく感じた。




ドアなんてない宮の前に立ち、

私は声を出しながら

なんとなく足音を立てないように足を進めた。






「お邪魔しま〜す・・・誰かいたりしますか〜・・・?」


すると、中から

カッカッと慌ただしい足音が響いてきた。



「はーいっ!!少々お待ち下さいませー!!」



効果音と共に現れたのは

獅子宮付きの女官さんだった。



「あら、様。お久しぶりです。
最近、お姿を拝見しませんでしたので心配しておりました。
アイオリア様なら自室にてお休みになっておりますが、どうなさいますか?」


私の顔を見て、女官さんは

何も言っていないのに、

私の聞きたい事を言ってくれて、もうすでに私の回答を待っている状態だ。



「久しぶり。・・・じゃあ、ちょっと侵入させてもらおうかなー。」

私が、冗談まじりにそう言うと

女官さんは、目を細めて、

クスクスと可愛らしく笑い

「はい、わかりました。それでは、ゆっくりして行ってくださいませ。」

と、元の仕事に戻って行った。









「さて、と・・・」

女官さんの姿が見えなくなって、

アイオリアの部屋に向かわせてもらった。







「なんにも変わってないなー・・・」


歩いていく廊下や、その周りの光景をみて、呟いた。



長い間アイオリアを避けてしまっていた、と感じていたけれど

ここが変わっていなくて、

実際、1ヶ月くらいしか離れていなかったんだ、と思った。





いつもと同じ廊下。

体が、気持ちが、覚えている。


この先にアイオリアがいるんだ、って。






しばらく歩いて

見慣れた扉の前に辿り着いた。





カチャッ ・ ・ ・





「おじゃましま〜す・・・」

一応、人の部屋だということで、

自分にしか聞こえないくらいの声でそういった。







部屋に入ると

ベッドの上で仰向けに眠っているアイオリアが目に入った。







う わ ぁ ・ ・ ・


久しぶりに、まともに見れたアイオリアの素顔に

私の胸は、急に激しく鳴り出した。




アイオリアだ。

アイオリアが目の前にいるんだ。



耳で、彼の吐息を聞いて

鼻で、彼の香りを感じて

目で、彼の姿を確認してしまう。


それでも、なんだか、気持ちは舞い上がっていて、

信じられなくて


触れたい、と思った。



それを思ったときに、私の右腕は

既に彼のやわらかそうな髪に伸びていて、


やっと、彼が目の前にいる事実を、受け止められた。





「・・・髪の毛、ふわふわだ。うらやましいな。」

そんな事を言いながら、髪の毛を弄ぶ。



「・・・・幸せそうに寝ちゃってさー・・・」

ふと、呟く。




「アイオリアのせいで私なんか寝不足だよ。」




「アイオリアー・・・」




「・・・・・アイオリアは・・・・魔鈴さんが・・・好き・・?」




「・・・・・・・・・・・・・・」




「・・・私は・・・、アイオリアが、好きだよ・・・?」





ぐいっ、



と、気づいたら、アイオリアの手が後頭部にあって

それが、力強くひかれて

私はアイオリアの胸に倒れこむような形になってしまった。




「っ・・・!!!?」



驚いて、すぐに起き上がろうと

腕に力を入れたけれど

力強く抱きしめられていて、私の体はビクとも動かなかった。




何が起こったのか、まったくわかっていない状況で

どうしようもないという中で

耳をくすぐるように、聞こえた声。




「やっと、着たな。」




「ッ!!?ア、アイオリアッ!??いつから・・・っ」




「お前が、宮に訪れた時から、起きていた。・・・眠れるわけ、ないだろう。
お前が、離れていってしまうと思うと・・・。」


そう言うとアイオリアは私を抱きしめる力を強くした。

それに比例して私の体温は上昇していく。



「そ、れは・・・」


「なぜだ?なぜ、突然俺を避けだした?」


「っ・・・」


そうだ、このことを話すために、アイオリアの元まで来たんだ・・。

今のままじゃ嫌だから・・・。




アイオリアの腕の中から逃げ出し

立ち上がった。




「ア、アイオリアは・・・・・」

「俺は?」

「アイオリアは、魔鈴さんと、・・・・付き合ってるの・・・?」




言った。

言ってしまった。


アイオリアの口から

出た言葉が、

私にとってどんなに残酷な言葉でも


受け入れたい。



受け入れて、

・・・・・・、その後は、まだ考えてないや・・・。




アイオリアの顔を見たら

ひどく呆けていて


この表情はどんな意味なんだろう

と、考えるたびに、

胸が痛んだ。







「なぜ・・・」

「へ?」


「なぜ、そんな話になっているんだ?」




その言葉を聞いて

あの時の、闘技場での出来事が頭の中で

フラッシュバックした。




「・・・・・・っ、だって・・」

「・・・・?」


「・・・っ・アイオリアと、魔鈴さんが、闘技場で・・・っ」



ああ、自分の口から

あの事は言いたくない・・・。




「魔鈴さんと、・・・っアイオリアが・・っ・・」




楽しそうに笑うアイオリア


仮面をしてない魔鈴さん・・・





「・・・っ・・」




ふわっ


「・・・っ!?ア、アイオリアっ・・?!!」



何も言えず

涙をこらえて、俯いた私を

さっきも感じた暖かい腕が抱いた。





「ゆっくりで、いい。分かるように言ってくれ。
大丈夫だ。」




優しい声で囁かれると、こらえていた涙が溢れ出しそうになる。



「・・・ふぇ・・っ・・・
アイオリアと喋ってる時・・っ、魔鈴さん・・っ仮面してなかっ・・た・っ・・!!」



アイオリアに抱きしめられているから

泣き顔は見られなくて、良かった。


だけど、

全部言ってしまった。本当に。

















はぁ・・・





ふと、私の頭上から、ため息が聞こえた。




「えっ・・アイオリア・・・?」




「それは誤解だ。」



え・・・

え・・・?



「えぇ!!!?」


誤解!?

誤解って!?



「まあ、の位置からでは仕方ないがな・・・。

魔鈴は仮面をしていたぞ。ちゃんと。」


そんなわけない・・。

私だって、ずっと私の勘違いだと思いたくて

何度もあの光景を思い出していたんだから・・・。


「私はちゃんと、見たよ!魔鈴さん、仮面つけてなかった!!」


バッと顔を上げると

アイオリアは困ったような顔をして、

私の目から溢れている涙を指でぬぐった。


「ちゃんと、してたんだ。
・・・そもそも、なんでは魔鈴が仮面をしてないと思ったんだ?」


「それは・・・」


二人を見て、魔鈴さんの唇が動くのが見えた、から。



アイオリアにそれを告げると

彼は苦笑してこう言った。


は、知らないと思うが、
女聖闘士の仮面は何種類もあるんだ。」


「え?」


「もし戦闘中に、仮面が割れたりしたら、どうなると思う?」


もし、仮面が割れたら・・?


「・・・顔を見られた人達を、愛するか殺さなくちゃいけなくなる?」


「そうだ。・・だから、常にスペアは持っていなくちゃいけないんだ。
それも、少しでも軽くするために鼻から上だけを隠すタイプをもつ人もいるんだ。」


「え、・・・という事は?」



まだ、頭の中が混乱している私に

アイオリアは微笑んで

”まだわからないか?”

と言った。



が見たのは、その仮面をつけた魔鈴だったんだ。」



え。


「じゃあ・・・」



アイオリアは、魔鈴さんの顔を見てない

顔を見てないって事は

二人は、愛し合ってるわけじゃ・・・ない?




”良かった・・・”


頭ではそう感じたのに

体に力が入らなくて

私は、ぺタッとしゃがみこんでしまった。







「誤解も解けたようだな?」

すぐ上から声を聞いた。

「う、うん・・・」


私が、なんとか返事をすると

アイオリアは、私の目線まで腰を下げて

いつもと違う、意地悪な表情をした。


「俺の事は、嫌い、なんだったな?」

「え、あー、その・・・」


なんだか、勝手に誤解して、嫉妬して、怒った自分が

恥ずかしくなって、見つめてくる視線と、視線を合わせられなかった。



「今日は、これで帰るのか?
・・・まだ、言う事があるんじゃないか?」


ニヤニヤと、珍しく年相応に笑っているアイオリアが

なんだか憎らしい。


「それは、そのー・・・」

確かに、私はアイオリアに自分の気持ちを伝えに来たのだが

なんだか、もう気恥ずかしくなってしまった。







「ん?」


首をかしげて、私の答えを待つその姿は

なんだか、彼の兄を連想させた。




「・・・〜っ・・・あーーーっ!もう!知らない!!」



照れたキモチと、赤くなった顔を隠す為に

私は、その場から

アイオリアを振り切って

ダッシュで獅子宮を飛び出した。















走ってる中で、思った。


私は、自分の言いたかったことも全部言えた。


自分の、想いも。


だって、あの時、彼は起きていたのだから


わかっていて、彼は、私の口から同じ言葉を言わせようとしたのだから。





もしかしたら、自惚れてもいいのかもしれない・・・



そう思ったら、自然と顔がにやけていた。









「・・・私は・・・、アイオリアが、好きだよ・・・?」








獅子宮に取り残された主は

の逃げていった先を見つめて微笑んでいた。


自分が寝たふりをしてる時にもらった言葉と、

さっきまで腕の中にあった幸せを思い出しながら。







NEXT・・?



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先に言います。


仮面が何種類もあるかなんて、知りません。

勝手に加えちゃったvVえへ(キモ



なんだか長くなっちゃった。
説明つかないとこも山ほどたくさん。


でも、この二人、なんだか気に入っちゃったから続編書きたいなー。


実は、ミロ編なんかも書いてたりする。笑

アイオリアが妙に落ち着いてた理由もきっと・・・。ふふ。